第一回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー
インタビュアー:真栄中美樹
日本が誇る世界最速EVスーパーカー、ASPARK Owl(アスパーク・アウル)は、2017年、ドイツはフランクフルトモーターショー にてセンセーショナルなデビューを果たした。
さらに2018年2月には0-100km/h加速で1.921秒を記録し、2秒の壁を大幅に切るという世界記録を達成されました。
2018 パリやドイツのモーターショーでも人気が高く、4億2,000万円という価格にも関わらず、その場で手に入れたいという引き合いも数件あったとか。
そのASPARK Owlの優雅で美しい車体のデザインを手がけられた、カーデザイナー大津秀夫氏のインタビュー記事を、J News Internationalで連載させて頂く運びとなりました。
実は私と大津氏は実際にはまだお会いしてはいないのですが、知り合って15年程になります。SNSでのやり取りがずっと続いているという感じで、なんとなくはお互いの近況を知っているという状態でありました。
今回、このインタビューをさせて頂くにあたり、前もって知っている事もありましたが、今回の取材でそれは『今までほんの一部しか知らなかった』という事がわかった次第でした。
■筆者から見たASPARK Owl
私はこのASPARK Owlを初めて見た時、非常に女性的な車だという印象を抱きました。
どっしりとした構えでありながら、知性的で優雅なラインは、まるでギリシャ神話の美と知性の女神アテナのよう。
女神アテナとは、平和のために戦い、理知的で気高く思慮深く、そして彼女の聖鳥はなんとフクロウ!ASPARK Owlのイメージそのもの。
ゆったり走りそうな外観とは裏腹に、0-100km/h加速世界記録保持という、負けん気の強い一面を持つところなど、まさに女神アテナのイメージぴったりではないかと勝手に思っている。
ASPARK Owl PV
出典:株式会社アスパーク
こちらのPVに出てくる3DCGは、大津さんが製作したものを使用して動画として作成されています。私自身も以前3DCGを専門学校で学んだことがありますが、この繊細な制作がいかに凄いかというのはひと目で分かりました。
電気自動車ASPARK Owlは大阪に本社のある人材派遣会社、株式会社アスパークのR&D事業部が企画開発。
車体制作は栃木に本社のある株式会社イケヤフォーミュラ。
車体デザインは今回取材させて頂いた大津秀夫氏代表の株式会社アッシュインスティテュート。
美しくて先進的で速そうな形の車が好きで、既存のカテゴリー分類でいうとその種のものに近いという事です。
といいますか、この車に関しては、お客様からそういうデザインを依頼されたという事ですね。
デザイン全般、モダンで美しいもの、車(1960年代末~1970年代前半のイタリア系デザイン、デザイナーでいうとレオナルド・フィオラヴァンティ、マルチェロ・ガンディーニ、フィリッポ・サピーノ、ジョルジェット・ジウジアーロ、レーシングカーの設計者としてアンドレ・デ・コルタンツ、ゴードン・マーレー)、バイク、自転車(ロードバイク、TTバイク)、航空機(超音速旅客機、超音速ステルス偵察機、最近のステルス戦闘機)、高速鉄道(新幹線500系)、絵画、音楽、オーディオ、インテリア(特にイタリアンモダン)、観葉植物、ブーゲンビリア、新緑、白樺、初夏、海辺の家並み、南ヨーロッパや地中海沿岸の風景、イタリア、ギリシャの島々(特にサントリーニ島、ミコノス島)、動物(特に猫、チーター、キリン、小動物系) 、イタリアン料理(パスタ系、ティラミス)、炒め物全般(特にナス)、ナッツ類、甘いもの全般(あんこは粒あん派)
そうですね、私が持つ大津さんのイメージは「猫」と「白」ですね。
特にSNSではご自宅で飼われている猫の話題が多く、外猫さんをご家族に迎えられるほど、優しく穏やかな方という印象は、昔から変わりません。
Maseratiに乗る大津氏
“きっかけ” について(かなり長くて申し訳ないほどです)
90年代のことですが、当時私が乗っていた車が日産のシルビア(PS13:S13の後期型)Ks(ケーズと読みます)の赤いので、後輩から大津さんが乗るような車じゃないですよ…と言われたりしていましたが(立場上もう少し立派なのに乗ってたほうが良いという意味)、安っぽいところが散見されるとはいえ自分としては身分相応だし、比較的コンパクトで手頃、スッキリした形が良くて気に入っていました。
ご存知の方も多いと思いますがこのシルビアという車はいわゆる“走り屋”の方々にも大人気で、これ見よがしにそれっぽい(バカっぽいw)改造を施した固体が巷で数多く見うけられました。
私自身もいくつか改造というかパーツ交換をしていましたが(アルミホイール、スピードレンジの高いタイヤ、ステアリング、シフトレバー/シフトノブ、ブレーキキャリパー/ローター、ターボのインタークーラー等をグレードの高い自分好みのものに交換、サスペンションコイルを交換して特にフロント側の車高を少しだけ下げる、オリジナルのフロントグリルを自作して交換…など)、あくまで外観はノーマル風。ウイングやスポイラーの類もつけませんでした。
外観はおおむね気に入っていたのでなるべくそのままにして、機能面で“純正はコストのためにこうせざるを得なかったのだろうな…”と思われるところを出来る限り高品質なものに変えて“本物”になるようにと考えてこうしていました。
それである時、その種のネタが多く取り上げられている車雑誌(主に“走り屋”の方々が対象)の記事でイケヤフォーミュラさんの開発中のサスペンションキットなるものを見つけました。日産180SX(シルビアの兄弟車)用のプッシュロッド式サスペンションです。
(ちょうどこのあたりのことを以前のブログで書いています↓)
ASH INSTITUTE Blog 2014年12月24日
OPTION2 最終号、イケヤフォーミュラさんとの出会いのきっかけ
https://ash-institute.blog.so-net.ne.jp/2014-12-24
------ 上記ブログから抜粋 ------
“画像は1999年、何月号か忘れたがこの雑誌で取り上げられていたイケヤフォーミュラ製作の
チョップドルーフの180SX。ルーフがやたら低い。他はわりと、いや当時としてもかなりおとなしめ。
この外観はともかく、リヤサスの写真に目を奪われた。
なんとプッシュロッドタイプ(!)だった。
すばらしい!なんてカッコイイんだろう!
ぱっと見ただけで技術的なアドバンテージが良くわかる。
剛性面でもレバー比の点でも極めて合理的。(ただし、荷物スペースということを無視すれば、という前提つきw)
いわゆるサスペンションキットというアフターマーケットのパーツは数あれど、こんな風に
基本形式から変えて理想的なものにしようというものは当時も今もほとんど他では見当たらない。
こんなサスペンションを作ってくれるところがあるんだ…
そう思ってメールを送ったのが池谷さんとの最初のコンタクトだった。”
------ 以上抜粋 ------
ということで、この開発中のプッシュロッド式リヤサスペンションを自分のシルビアにもつけたいと思い、色々質問事項を書いた問合せメールをイケヤフォーミュラさんに送りました。
数日後、池谷社長から返信が来て、こちらからの質問に対して共感できる丁寧な回答と、それに加えて私のウェブサイトを見て非常に興味を持ち、是非色々と協力して欲しいというようなことが書かれていました。
それからメールのやり取りをして互いのスケジュールをすり合わせ、栃木県鹿沼市のイケヤフォーミュラさんの当時の工場で初めて池谷さんとお会いすることになるのですが、とても穏やかで控えめで話しやすい方でした。その印象は今もずっと変わりません。
私が問い合わせたプッシュロッド式リヤサスペンションに関しては、シルビアに装着すること自体は技術的には大丈夫とのことで、製品版のリリースを待つことにしました。そしてイケヤフォーミュラさんで製作されたFJ1600(フォーミュラカーレースの入門カテゴリー)のレーシングカーを見せてくださり、新型の構想を聞かせていただきました。そしてその新型デザインを依頼したいと言ってくださいました。
とても魅力的でありがたいお話だったのですが、当時の私は会社での仕事も忙しいし、この種のレーシングカーをデザインするには知見が不足していました。
後日後、池谷さんからFJ1600カテゴリーのレギュレーションブックも送られてきて、それを見ながら少しずつ3Dでデザインをしてみてはいたのですが…、とても自分で納得できるようなものにはならず、いたずらに時ばかり過ぎていき、結局池谷さんにご覧いただくことも無く、結局その件はうやむやになってしまいました。
そして、最初に私が問い合わせたプッシュロッドタイプのリヤサスペンションキットについても、残念なことにその後正式なリリースはされなかったようなのですが(他の一般的なサスペンションキットは色々とリリースされていた)、私もFJ1600の新型デザインが出来ていないので連絡しづらくて、きちんとしたことは聞けずじまいでした。
そんな経過だったのですが、同じ車両で開発していた別の製品:シーケンシャルシフター(トランスミッション:変速機のパーツ)が大ヒット作となり、イケヤフォーミュラさんはハイクォリティで先進的なレーシングパーツのメーカーとしてその知名度を上げていきます。
この製品はモデルチェンジを何回か繰り返し、そのたび洗練され、対応車種も増やし、後にその発展形であり最終進化系として画期的なシームレストランスミッションの開発に成功します。
これはレーシングカーだけでなく、一般的な量産車のパーツとしても非常に大きな可能性を秘めた製品で、日本の全ての自動車メーカーから、そしてアメリカのGMなどをはじめ海外の大手自動車メーカーから、問合せはもちろん、製品の引き合い(いきなり万単位のロットとか…さすがにそれは対応できませんとお断りしたそうです)、共同開発の打診など世界規模で大きな反響を呼びました。
そのシームレストランスミッションのアピールのために、実際にそれを搭載したオリジナル車両を開発しよう、
それならずっと作りたいと思っていた本格的なスーパースポーツカーにしよう! ということで開発が始まったのが2013年の東京モーターショーで発表されたIF-02RDSという赤い車で、その開発スタートは2012年の夏でした。
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